第三章 水槽を設置する前に
1.設置場所の選択@、床の強度と給排水
さて、前章では、最低限必要な機材として、60センチ水槽セットを購入しました。この章では、いよいよ水槽の設置をおこないます。
水槽の設置にあたり、一番重要な問題は、それをどこに置くかということです。
一般的に市販されている水槽器具は、通常、屋内での使用を原則としていますので、ここでは、屋内への水槽設置を前提として進めていきます。
60センチ水槽に水を満たして、諸々の器具を据え付けた場合、その重量は、およそ70キログラムにも及びます。将来、水槽の数を増やして、上下二段式の水槽台に二組の水槽を設置した場合には、重量は、二倍の140キロです。ですから、まず第一に、家の中に、それだけの重量物を置いても床が抜ける心配のない場所を見つけなければなりません。
畳の上というのは論外です。できれば、玄関にあるコンクリート製のタタキの上や、フローリングの床の上などにしてください。
次に考えなければいけないのは、給排水の便の良さです。
当たり前のことですが、水槽では、水を使用します。最初に、空の水槽に水を入れる作業があるのはもちろんですが、一度水を入れたらそれで終わりというわけにはいきません。魚の排泄物などにより、水槽の水が汚れた場合には、その水を捨て、新しい水を再度入れなければなりません。水槽の水全部を一度に交換するという作業は、年に何度も行いませんが、若干量ずつの水の交換作業は、定期的に必要です。その都度、バケツで遠方から水を汲んできたり、一度バケツに抜いた水を、捨てるためにわざわざ遠方に運んでいくというのは、大変な労力を必要とします。
バケツ1杯の水の容量は、大体7〜10リットルです。重さに直すと、7〜10キログラムに相当します。水の容量が少なければ、運ぶ回数が多く必要です。逆に容量が多くなれば、当然、バケツは重くなります。飼い始めたばかりの頃は、まだ情熱があるからいいのですが、やがて、この作業が面倒になり、その結果、魚を飼育することそれ自体をやめてしまうかもしれません。
ですから、水槽から水を抜く場合には、吸水ホースで吸い出した排水を、そのまま流して捨てることができるよう、排水口が近くにあることが理想的です。やむをえず、排水口のすぐ近くには水槽を置けない場合は、ホースを延長して、排水口まで伸ばしていくことを、念頭に設置場所を検討してください。
給水の場合は、水道の蛇口にホースを接続して、塩素が含まれた水道水を、直接、水槽内に流し込むというわけにはいきません。どこかに常に汲み置きの水を用意しておき、水換え時には、その水を利用することになります。
例をいくつかあげてみます。
週に一度なり日に一度なり、定期的な周期で、バケツに一杯分ずつの水を換えていくといたしましょう。この場合には、汲み置きとして、必要な水の量は、バケツに一杯です。水槽から、ホースでバケツ一杯分の水を排水し、減った部分に、汲み置きにより塩素の抜けた水を補給していくというやり方です。もし、どうしてもホースによる排水口への直接排水ができないという場合は、別の空きバケツに、まず一杯分の水を抜き、それを排水口まで運んで捨て、不足水を、汲み置きしておいたバケツの水により補給するという手間になります。したがって、バケツは2つ必要です。
別の例を紹介します。
水槽を置くための二段式の水槽台を使う方法です。水槽台の下段に魚を飼うための水槽を設置し、上段には、水換え用の汲み置き水のための水槽を設置します。魚がいる下段の水槽からは、汚れた水を排水口へホースで捨て、不足した分の水を、上段に汲み置いた水槽から、やはりホースで、下段の水槽へ流下をさせて補充をします。補充をした分、上段水槽の水が減りますので、これをさらに補充するのですが、この方法の場合には、蛇口から、水道水を直接ホースで上段水槽に補充してしまって問題ありません。次回の水換えまでに、上段水槽中の塩素が、抜けさえすれば良いのです。もう一つの利点として、汲み置き水が、常に水槽一杯分ほど確保されていますので、必要とあれば、下段の水槽の水を、一度に全部交換してしまうことも可能です。水の汚れがあまりにもひどい場合や、魚に病気が発生して、薬剤を使う前に、菌に汚染された水を廃棄したい場合などに重宝します。
錦鯉店の場合は、魚は、主に池に入れられて販売されていますので、あまり見かけませんが、金魚店や熱帯魚店など、魚を水槽に入れて販売しているお店の場合には、よく見かけることのできる水換えの方法です。販売用の複数段式の水槽台の最上段に、魚が入っていない、水とエアレーションだけの大型水槽が置かれています。この水槽で、水が汲み置きされているのです。
二段式の水槽台は、安価な物で2,000円程度。セットではない、単品の60センチ水槽も、やはり2,000円程度で販売されておりますので、初期投資ではなく、将来的な投資として、これらの器具を増やしていくのも良いと思います。

安価な水槽台は、2,000円程度で購入できます。
|
また別の例です。
バケツに何杯もの汲み置き水を用意しておいたり、水しか入っていない水槽を確保しておくというのは、現実論として、とても邪魔だし、もったいない話です。インテリアとしても、あまり美しくはありません。せっかく水槽が2つあるのならば、その両方で魚を飼いたいというのが人情でしょう。
第一章でも少しお話をいたしましたが、普通のご家庭で、普通に確保されている汲み置き水といえば、お風呂の水です。くれぐれも石鹸水は不可。また、お湯やぬるま湯の使用も不可ということを大原則として、昨夜のお湯が、室温と同じ温度になる頃までには、大体、塩素も抜けているはずです。この水を、給水に使います。排水については、ホースで排水口に流すというのが、基本となりますのでそのようにします。それに伴い不足した水槽の水を、風呂から、風呂水ポンプにより、直接、水槽中へ給水しようというやり方です。
風呂水ポンプにつきましては、ご承知のことと思いますが、お風呂の残り湯を洗濯に使用するため、洗濯機へそれを送水するためのポンプです。全自動洗濯機の場合は、洗濯機自体にあらかじめ接続式の風呂水ポンプがついていますが、その場合は、送水先が洗濯機内に限られてしまう上、送水の開始・停止が、洗濯機任せとなり、自分の意志で自由にコントロールすることができないので、使用できません。全自動ではない、普通の洗濯機に風呂水を送水するためのポンプが、それとは別に市販されていますので、そちらを使用してください。「風呂水ポンプ」、「バスポンプ」などといった名称で、様々なメーカーから製品化されていますが、安価な物であれば、1,000円程度で購入できます。

水換え用のポンプです。
鑑賞魚用の専用品ではなく、普通の風呂水ポンプで十分です。
|
ちなみに、筆者は、この方法での給排水を採用しています。
風呂水ポンプで吸水をするにあたって、ちょっとしたコツが一つありますので、あわせて紹介しておきます。風呂水ポンプの揚水能力(水を上に揚げる力)は、それほど高くはありません。揚程(水面を起点として、そこから水を吸い揚げることのできる限界の高さ)にして、せいぜい2メートルから2.5メートルといったところです。
通常は、床から水槽の上部まで2メートルもの高低差があることは考えられないので、それだけの揚程があれば十分なのですが、前記の数字は、ポンプのカタログ上の数値となりますので、使用条件から生じる送水効率のロスにより、実際の揚程は落ちてしまいます。
例えば、風呂から水槽まで、床づたいに伸ばしたホースの長さが、あまりにも長い場合などは、床から水槽の上部までの高低差が2メートルよりはるかに低いにもかかわらず、その高さまで、ポンプが水を持ち上げられないという事態が発生することがあるのです。
この原因は、ポンプが水を持ち上げようという力に対して、ホースの中の水が重りの役目を果たしてしまい、揚水能力にロスが生じてしまうためです。そこで、ちょっとしたコツとして、このような事態が発生した場合の対処法について紹介したいと思うのですが、ホースの中の水が重りの役目を果たしてしまうのであれば、そうならないように、ポンプのすぐ近くでホースを垂直に立ち上げて、必要な高さ以上の位置まで水を持ち上げ、その先は、水を自然流下させてしまえば良いのです。
風呂水ポンプに限らず、どのようなポンプであれ、その能力は、ポンプに一切の負荷がかかっていない状態において、一番、発揮されます。床の上を長々とホースを這わせていき、その末に、水槽の足下で初めてホースを立ち上げようとする場合は、水槽の高さ分の水の重さだけでなく、そこまで水を届けるためのホース内の水の重さも、ポンプに対する負荷として、マイナスの効果を発生させます。重たい物ほど、持ち上げるためには、より多くの力が必要になるわけですから、重さが、ポンプの揚水能力を上回ってしまうと、カタログ値まで、水を持ち上げられなくなるのです。
ですから、ポンプに対する負荷が最小限となるよう、ポンプのすぐ近くで必要な高さ以上の位置まで水を持ち上げてしまい、その先は、水槽まで水が自然に流下していくようにホースを設置してやれば、ポンプは最大の能力を発揮できます。床の上を長々とホースを這わせていった結果、ポンプが水を持ち上げてくれなかったという事態が発生した場合には、この方法を、一度、お試しになってみると良いでしょう。風呂水ポンプを、より強力な能力を持つ揚水専用のポンプに買い換えることなく、水換えができるかもしれません。
ところで、ホースを使用して水換えをおこなう場合は、接続したホースが途中ではずれるなどの事態により、室内が水浸しになってしまう恐れが、常にあります。ホースを水槽に設置したまま、つい、他の仕事を始めて、水換え作業中であることを失念することのないようにしてください。また、給水のしすぎで、水槽から水があふれて、やはり水浸しになったり、その逆に、排水のしすぎて、水槽を空にしてしまい、魚が窒息してしまうといった不幸も生じえますので、ご注意下さい。
また、 風呂水ポンプを使用することを前提とするならば、さきほどの二段水槽の事例において、上段水槽で魚を飼育し、下段水槽を水換え用の種水水槽とすることも可能です。人間の目線の位置からは、上段水槽の方にはるかに目がいきますし、鑑賞目的で魚を飼育するのですから、見やすい方が良いに決まっています。欠点としては、上段から下段へ水を送る場合は、単純な自然流下であるため、電気代は不要ですが、下段から上段へ、風呂水ポンプにより水を送る場合には、若干の電気代がかかることです。見やすさを選ぶか、電気代を選ぶか、どちらを選択するのかは、各自のご都合により、お決めください。
水換えについては他に、汲み置き水ではなく、水質調整材により補充水をその都度調整していく方法や、塩素を除去する特殊な浄水器を水道にセットし、蛇口からホースで、直接、水槽に水を入れる方法などもありますが、事例紹介が長くなりすぎたため、ここでは紹介を省略しました。
ホースによる排水は、水面と排水口の高低差を利用するものであるため、水槽を直接床に置いた場合は、排水が上手におこなえないことがあります。使わなくなった机や、古いテレビ台など、重量に耐えられる台の上に置くことを心がけ、適当な台が手元にない場合には、将来を待たずに、前述したような水槽台を購入すると良いでしょう。

排水の便を考え、水槽の底面は、床より高くなるようにして下さい。
|
|