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3.60センチ水槽セット

 前項までに、最低限、必要な物として、60センチ水槽、エアポンプ一式、蓋の三点について説明をしてきましたが、理想を言えば他にも欲しい物は色々あります。
けれども、欲しい物を単品で一つ一つ揃えていくと、金額も馬鹿になりませんし、そもそも初心者には何を買うべきであるのかがよくわかりません。そんなときに便利なのが、60センチ水槽セットです。
 今、ここに、新聞広告として折り込まれてきたホームセンターのちらしが2枚あります。それぞれに掲載されているペット用品に対する記事の中から、水槽セットに関する部分を抜き出してみましょう。『熱帯魚10点セット』と『60cm水槽4点セット』です。代金は、前者が7,980円、後者が4,980円と記載されています。
『熱帯魚10点セット』の内容は、@60cm曲面水槽、A2灯ライト、B上部フィルター、Cサーモスタット付ヒーター、D水温計、Eバックスクリーン、F中和剤、Gネット、Hフタ、I濾過材のあわせて10点です。
『60cm水槽4点セット』の方は、@60cm水槽、Aガラスふた、B上部フィルター、C蛍光灯となっています。ただし、注意事項として、砂利やフィルターマット等が別売りである旨が記されています。


ホームセンターの安売りの広告は必需品です。


 一目で分かることですが、『60cm水槽4点セット』の内容は、すべて『熱帯魚10点セット』に含まれているものです。ですから、単純計算で、それ以外の6点の金額が、3,000円相当という計算がなりたちます。その6点の中には、必ずしも、特に必要ではないというものも含まれておりますので、どちらのセットを購入するべきか検討する際には、4点セットに必要な欲しい物を買い足していく方が得策なのか、無駄があっても、思い切って10点セットを購入した方が得策であるのかという比較になります。
 それでは、両者の具体的な比較に入りたいと思いますが、その前に、どちらのセットの場合も、前項までに示した、最低限、必要な物の一つであるエアポンプ一式が含まれておりません。水槽と蓋については入っているので問題ありませんが、はたしてエアポンプはなくてもすむものなのでしょうか?
 結論から言いますと、上部フィルターが、エアポンプが担っていた水槽内への空気供給の役割をはたします。その仕組みについて簡単に説明をいたしますと、水槽の上に濾過バクテリアの住みかとなる濾過材を入れた箱、濾過槽を置き、ポンプで汲み上げた水を流し込んで濾材中を通過させることで、水を濾過するというものです。濾過された水は、濾過槽の底面に開いている穴から、水槽内に流れ落ちます。その際に、落ちた水が水面とぶっかりあって、エアレーションと同じ役目をはたして、水中に酸素が溶け込むことになるのです。主目的が、水の濾過であることから、エアポンプほどの酸素供給能力はありませんが、魚の数さえ調整すれば、十分、エアポンプの代わりになりえます。
 検証に戻りましょう。両セットの差である6点の内容に、冒頭で触れた、他にも欲しい物というのは含まれているのでしょうか? 6点の内訳を、魚の生死に直結するか否かにより、必ず必要な物と、いずれは欲しい物、なくても困らない物の三種類に分類してみますと、次のように分けられます。
 必ず必要な物、I濾過材。
 いずれは欲しい物、Cサーモスタット付ヒーター、D水温計、Gネット。
なくても困らない物、Eバックスクリーン、F中和剤。
I濾過材が、必ず必要な物であるということについては、異論のある方はおられないだろうと思います。実は、4点セットは、それだけを購入したのでは機能が成立していません。砂利やフィルターマット等が別途必要であるという注意書きのとおり、濾過材が不足しているのです。
 上部フィルターに限らず、各種濾過器具は、同時に濾過材が存在しているのが前提となっている製品です。具体的に濾過材として一般に市販されている物としては、ウールマット、砂利、各種多孔質濾材、活性炭等があげられます。
 ウールマットは、水中の荒いゴミを濾し取ることを目的に使用する濾過剤で、一言で言ってしまうと、ガラス繊維製の綿のような物です。1枚あたり100円前後で売られていることだと思います。通常サイズの上部フィルターですと、1枚から2枚程度が必要です。
 砂利、もしくは各種多孔質濾材というのは、ウールマットにより荒ゴミを除去された水が次に通過することになる濾過剤で、濾過バクテリアが実際に生息する部分です。
 多孔質濾材というのは、人為的に濾過バクテリアが生息しやすい環境をつくりだそうとして開発された濾過剤で、その表面に目には見えない小さな穴を無数に開けるなどして、単位面積あたりの濾過バクテリアの生息可能数を増加させている製品です。メーカーごとに、セラミックスや合成樹脂など素材や形状に様々な工夫をほどこした各種製品が存在していますが、要するに砂利の濾過機能をさらにパワーアップさせたものだとお考え下さい。
 値段については、やはり、メーカーや製品の違いにより千差万別ですので、ここでは砂利を選択します。ちなみに、前述の折り込み広告の説明書き中にある砂利というのは、濾過剤よりも、おそらく、水槽内に敷くための砂利を示していると思われますので、そのことも選択の一つの理由です。砂利を安価に購入するためには、一般的に観賞魚用品売り場で売られている物ではなく、ホームセンターの外売りの資材置き場で販売されている物を選択するのが、一つの手法です。15kgで、300円程度だと思います。
 活性炭というのは、水中に溶け込んだ魚の排泄物によるアンモニア成分を吸着するための濾過剤で、ヤシ殻を炭化させた物などが主原料です。小袋1つが、やはり100円前後で売られています。通常の上部フィルターには、1袋から2袋程度を使用しますが、絶対に必要というほどの物ではありません。水換えの頻度の調整により、対処が可能です。
 仮に、ウールマット、砂利、活性炭のすべてを必要量購入した場合でも、1、000円あれば十分だと思われます。もちろん、各種メーカーが独自に開発している多孔質濾過材などを選択する場合には、それ以上の金額が必要となりますので、好みにあわせてお選び下さい。どのメーカーの製品も、砂利よりは濾過能力が優れていることと思います。


上部フィルターに使用する主要な濾過材であるウールマットです。
水洗いをして、汚れを落とすことで何度でも使えます。


 次に、いずれは欲しい物の中から、Cサーモスタット付ヒーターについてですが、錦鯉は熱帯魚ではありませんから、必ずしも水温の低下が魚にとって厳禁というわけではありません。しかしながら、水槽で錦鯉を飼育する場合、最初は恐らくその年の春に生まれた、10cmから15cm程度の小さな魚から飼育し始めることになると思いますので、成魚よりは水温の低下に対する抵抗力が弱く、越冬に失敗する恐れがあるのもまた事実です。
 夏場は、もちろん加温をする必要はありませんが、冬季の当歳魚には、加温をして、できれば25度前後の水温で、通年、餌を与えながら飼育してあげられる環境が理想的です。
 とはいえ、自然の鯉は、氷が張った池の中でも越冬しているわけですし、水槽をベランダなど屋外に置く場合には、小型のサーモスタット付ヒーターでは役不足ですので、必需品としてではなく、いずれは欲しい物の中に分類いたしました。
 D水温計についてですが、錦鯉は水温の急変には体調を崩すことがありますが、徐々に水温が変化していく場合には、かなりの高温や低温に適応することが可能ですので、サーモスタット付ヒーターと同じく、熱帯魚を飼育している場合ほどには必要とする物ではありません。したがって、水替え時の水温調整や、冬期のヒーターによる加温飼育時の温度確認などが、水温計を使う主な状況ということになると思います。
 また、冬期のように水温が低い状況では、錦鯉は餌を食べませんし、食べてもお腹を壊す結果を招くことがありますので、加温飼育をしない場合に、餌やりをやめるタイミングと、餌やりを始めるタイミングを判断するためにも使用が考えられます。
 ガラス面に吸盤で貼り付けるタイプの水温計が、最もポピュラーな製品ですが、錦鯉は運動量の多い魚なので、すぐにつついてはがしてしまいます。あくまで「筆者の場合には」という前置きがつきますが、はがれた水温計を貼り直さずに水面に浮かせたままの状態、すなわち水温の確認を怠ってしまいがちであるにもかかわらず、錦鯉は、元気に活動を続けていますので、ここでは、いずれは欲しい物の一つとして分類いたしました。
 Gネットは、言うまでもなく、魚をすくう網のことです。主な使い道は、水換え時に他の容器へ魚を一時移動させるなどですが、錦鯉は、個体によっては高価な観賞魚であるため、体表に傷がつくことを心配して、ネットの使用を嫌う人もいます。そのような方は、大きめのビニール袋などを利用し、魚を水ごとすくいあげて移動させるなどの対処をしておりますので、魚の移動には、必ずしも、ネットが必要というものではありません。
 また、水換えの際でも、他の容器へ魚を一時移動させて、水槽の水のすべてを一度に抜いてしまうような大規模な水換えは、年に何回もおこないません。通常は、水槽の水の三分の一から二分の一程度をホースで吸い出し、不足分の水を補給するというやり方になりますので、こまめに水換えをおこなう方であれば、年間を通じて、一度も魚を網ですくわないという方もおられると思います。
そのような理由から、ネットについては、いずれは欲しい物として、分類いたしました。
ちなみにそれぞれの金額ですが、Cサーモスタット付ヒーターは、ワット数の大小で値段は変化しますが、安価な物で2,000円程度。D水温計が300円程度。Gネットにつきましては、径の小さい物でしたら100円程度から販売されておりますので、すべて揃えても、2,500円程度の金額で収まります。


サーモスタット付ヒーターは、冬期の当歳魚飼育には欲しい物ですが、
電気代がかさむところが難点です。


最後に、Eバックスクリーンと、F中和剤についてです。
 Eバックスクリーンとは、水槽を通して、壁面など、水槽の裏側の景色が見えないように目隠しをするためのシートで、水槽の背面に貼り付けて使用します。通常は、水草の写真などが印刷された青や黒のプラスチック製のフィルムですが、安価な水槽セットに含まれている製品は、厚手の紙製である場合が多いようです。
 魚の後ろに水槽のガラス越しに壁が見える状況というのは、案外、不自然で気になるものです。表裏両面から鑑賞ができるようにと、部屋の中央に水槽を設置するのでもない限りは、通常、水槽の背面には壁があることになると思いますので、確かに何らかの目隠しが欲しくなります。とはいえ、それが紙でもいいことは前述したとおりですので、お気に入りのカレンダーの風景写真や、その逆に、裏の白い面を使用するのでも、十分、代用が務まります。月ごとに、写真を貼り替えてみるのも、気分が変わって、楽しいものです。
 F中和剤につきましては、第一章で、水の汲み置きに対する説明をいたしましたので、特に必要な物ではないという理由は、おわかりいただけることと思います。


水槽背面に貼り付けるバックスクリーンと、
最も代表的な中和材であるハイポです。
ハイポには、水道水から、塩素を追い出す力があります。


 また、蛇足になりますが、共通している部分の違いについても比較をいたします。
 10点セットの水槽の場合、前面側のガラスは、曲面加工が施されているため角がありませんが、4点セットの水槽は、板ガラスを4枚(底板も含めると5枚)張り合わせて製造しているため角があります。10点セットの上部フィルターにはウールマットなどの濾過材が付属しており、蛍光灯においては2灯式と1灯式という違いがあります。ようするに、共通している内容については、10点セットに含まれている物の方が上等なのです。
 以上の点から総合的に判断しますと、10点セットが7,980円、4点セットが4,980円であるので、その差は3,000円です。これに対して、必ず必要な物である、I濾過材と、いずれは欲しい物である、Cサーモスタット付ヒーター、D水温計、Gネットを、別途購入する場合には、3,500円程度かかりますので、10点セットの方が格安であるという計算が成り立ちます。初期投資を抑えるために、まずは4点セットに濾過材を追加するだけですませれば、費用は6,000円程度プラス消費税です。
『はじめに』において、とりあえず1万円札一枚を予算としてご用意することをお願いしていますが、まだ3,000円以上も余裕がありますので、数百円程度の安価な錦鯉を数匹に、やはり数百円の安価な餌をあわせて買っても、楽々収まるとは思えませんか?
 さらに言えば、文中の各種金額は、あくまで参考価格です。折り込み広告によっては、メーカーの異なる同等品レベルの4点セットが、3,980円で販売されている場合があるなど、探せば他にも安い品物があると思いますので、情報収拾に対するアンテナをなるべく高くしておくことが、安価に錦鯉飼育を始めるにあたっての秘訣の一つです。
 繰り返しになりますが、錦鯉飼育は、お金持ちでなければ始められない、特殊な趣味などでは、決してありません。誰でも気軽に始めることができるのです。
 いずれにしても、まずは手頃な60センチ水槽セットを購入してください。
 すべてはそこから始まります。



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