[PR]テレビ番組表
今夜の番組チェック


第二章 水槽を買いに行こう

1.最低限、必要な物@、60cm水槽

 錦鯉を水槽で飼うために最低限、必要な物と言ったら何があるでしょうか?
 当然ですが、一番に名前をあげなければならないのは水槽です。
 一般的に流通をしていて、皆さんが、普段目にすることのある水槽の大きさというのは、おそらく、幅60センチメートル、奥行き30センチメートル、高さ36センチメートルという規格のものだと思います。このサイズの水槽は、通常、その幅をとって60センチ水槽と呼ばれています。メーカーにより、多少のばらつきはありますが、ホームセンターでは、2千円前後で購入できるのではないでしょうか? ガラス製で、黒か青の樹脂による縁取りが施されていることだと思います。
あなたが知り合いのご家庭にお邪魔したときなど、玄関先に水槽が設置されているのを見たことはありませんか? 思いだしてみてください。その方が、熱帯魚の飼育に特に凝っている人だとすれば話は別ですが、そこで飼われていた魚が、例えば金魚すくいの金魚が大きく育ったものであったりした場合には、おそらくその水槽が、60センチ水槽と呼ばれるサイズです。こう言えば、大体、イメージができると思います。



セロテープの大きさと比較してください。
これが60センチ水槽の大きさです。

 次に、公園の池で泳いでいる錦鯉の姿を思いだしてみてください。
ご承知のとおり、錦鯉というのは、大きくなる魚です。おそらく、公園の池で、普通に見かける錦鯉の大きさは、50センチメートルや、それ以上はあることでしょう。
 そんな錦鯉に、60センチ水槽は狭すぎます。60センチ水槽は、奥行きが30センチしかありませんので、50センチの錦鯉では、体を折り畳まなければ水槽内で方向転換をおこなうことすらできなくなってしまいます。もちろん、錦鯉には無理な注文です。
 それでは、やはり、水槽で錦鯉を飼うことは不可能なのでしょうか?
 そんなことは、ありません。錦鯉は、水槽でも十分に飼育をすることができる魚です。
 さきほど、公園にいる50センチメートルの錦鯉の話をいたしましたが、それは大人の錦鯉です。最初から、その大きさで生まれてきたわけではありません。
 地方により時期はずれますが、一般的に錦鯉の産卵は、5月から6月頃に行われます。
 卵の大きさは、直径2ミリメートル程度です。4日ほどで孵化した稚魚は、数回の選別を経て模様のよいものだけが残され、秋にはおよそ15センチメートル、約50グラムの大きさに育って、さらに大きく育てればより高く売れそうな鯉や、次の世代の親鯉として、錦鯉業者が自分のために手元に残しておくような特別上等な鯉を除いて、出荷されます。
どうでしょう? この程度の大きさの錦鯉であれば、60センチ水槽でも十分に飼育することができるとは思いませんか?
 もちろん、上の数字は、あくまで平均的なものですから、条件さえ良ければ1年間で30センチメートルや40センチメートルに育つ錦鯉もいれば、わずかに5〜10センチメートルどまりの錦鯉もいます。良い条件とは、すなわち餌の量に他なりません。
 食用となる黒鯉の場合には、その体重を1キログラム増加させるためには、乾物重量で1.5キログラムから2キログラムの餌を食べさせます。改良品種である錦鯉は、1年間で黒鯉の7割程度の成長にとどまるのが常ですので、黒鯉同様に体重を1キログラム増加させるためには、最低でも2キログラム以上、3キログラム近い乾物重量の餌を与えなければなりません。
 短い期間に、より多くの餌を食べさせれば食べさせるほど、それだけ早く鯉は育ちます。
 けれども、それは、鯉にとって、本当に良いことなのでしょうか?
 食用鯉の場合、店頭販売時には切り身にされ、グラム当たりいくらという形で売買がおこなわれます。食用鯉生産業者は、鯉たちを少しでも早く出荷するために、できるだけ早く食用となるサイズまで成長させる必要があります。成長が遅いと、その分だけ餌以外の余計な経費もかかることとなり、利益が減ってしまうためです。そのために、鯉に対して短期間に大量の餌を与えて、早く大きく育てなければならないのです。
 それでは、錦鯉の場合は、どうでしょうか?
 もちろん、錦鯉は、観賞用の鯉ですので、グラム当たりいくらという形での取り引きがおこなわれているわけではありません。
 けれども、観賞用であるからこそ、大きくなければいけない場合もあるのです。
 というのは、ご存じの方もおられるかも知れませんが、錦鯉飼育の熱心な愛好家たちは、自分が飼っている錦鯉を持ち寄って品評会をおこなっています。地方規模のローカルな品評会もあれば、全日本の名を冠した全国規模の品評会も存在します。
 大抵の場合、品評会では、錦鯉の大きさごとに一番美しい魚を、それぞれの優勝魚として決定する仕組みなのですが、柔道で言うところの無差別級のように、すべての大きさの鯉を対象に、全体総合優勝も決定されます。
 その際には、審査基準として、もし同じ美しさであるならば、魚が大きい方が良いとされる傾向があるため、上位入賞を夢見る愛好家たちは、競うように錦鯉に大量の餌を与えて、大きく育てます。また、錦鯉を販売している業者の側でも、そのあたりの熱心な愛好家の心理をふまえていて、自分が販売する鯉をより大きく育てるようにと努めています。
 その結果として、錦鯉は、常に過食状態で育成されることとなり、多くが体調を崩してしまうのです。上位入賞という栄冠をつかむ一握りの錦鯉は、無数の鯉たちの屍の上に成り立っています。残酷な話ですが、それが現実です。
 鯉には、胃がありません。胃がないということは、食べた物を長時間体内にとどめて消化をするのではなく、食べ物がダイレクトに腸に届いて、すみやかに排泄されてしまうということです。ですから、食べてしばらくは鯉は満腹感を感じていますが、すぐにおなかが減り、人が餌を与えさえすれば、いくらでも食べてしまうのです。けれども、それでは腸が休む暇がありませんので、当然、多くの錦鯉が体調を崩して死んでしまいます。
 逆に言うと、短期間に大量の餌を与えすぎない方が、錦鯉にとってはよいことなのです。腹八分目という表現があるように、健康のためには、むしろ少し空腹である方が理想です。
 ですから、特に品評会での入賞を目指すというのではなく、普通に錦鯉を飼って楽しもうというだけであれば、飢え死にしたり、やせ細ったりしない程度の適量の餌を与えていくことで、60センチ水槽でも、十分に錦鯉の飼育は可能なのです。
 鯉は、性成熟するまでの最初の三年間は成長が早くて、それ以降は比較的、成長がゆるやかになるものですが、いくら餌の量に制限をあたえたところで、死なない限り、いつかは公園の池の錦鯉のように大きくなります。そうして、鯉は、大変長生きな魚です。
「錦鯉はどれくらい長く生きるのですか?」
「人間が、へまをして殺すまでさ」
という、笑えない笑い話があるほどで、記録では百年以上も長生きをした例がありますが、平均的には60年から70年程度とされています。
 ただし、それは池での飼育の場合で、水槽での錦鯉飼育を60年も続けている人は、おそらくおりませんので、水槽飼育での平均寿命は、もっと短くなることでしょう。



池では錦鯉は大きく育ちます。

 池での飼育では、1メートル以上の大きさに育つ錦鯉も存在しますが、小さいときから水槽で必要以上には餌を与えすぎないように育てていれば、魚がみずから本能的に成長を抑えますので、20〜30センチメートル程度の体長を長期間維持させることも可能です。
 ですから、理想を言えば、最初から90センチ水槽(幅90センチメートル、奥行き45センチメートル、高さ45センチメートルという規格の水槽です)が欲しいけれども、60センチ水槽でもしばらくは大丈夫という認識で水槽を用意してください。魚を殺してしまうような不幸な事故さえなければ、いずれはもっと大きな水槽を用意しなければならなくなるときが必ず訪れますが、そのことについては、また別の章で話をします。
 錦鯉を水槽で飼うために、最低限、必要な物の一つ目、それは60センチ水槽です。


当サイトは、内容の書籍出版を前提に作成されています。
筆者の許可なく、その一部、もしくは全部を複製して利用することを禁止します。