3.魚が先にやってきた
とはいえ、実際には水槽と同時どころか、魚の方が先に家に来てしまう場合があります。
例えば、金魚すくいの金魚などです。縁日に行き、衝動的に金魚すくいに挑戦したところまではよいのだけれども、もれなくもらえた一匹の金魚を手にして家に帰ってから、どうやって飼おうかと頭を悩ませた。そんな経験をお持ちの方は、おられませんか?
昔と違い、最近では観賞魚店で魚を買った場合には、ビニール袋に魚と水と酸素を詰めて密封状態にしてから手渡してもらえます。袋の大きさや酸素の詰め具合、魚の数量にもよりますが、最低でも、半日から一日程度は、酸素不足にならずに、そのまま魚を生かしておくことができるでしょう。家に魚を持ち帰ってから、実際に水槽にそれを放すまでの間に時間的な余裕を持つことができるのです。汲み置きをして塩素を除去した水がない場合には、水道水を水槽に貯め、そこから塩素が抜けていくのを待っていられます。

ビニール袋に魚と水と酸素が密閉された状態です。
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けれども、金魚すくいで金魚を手にいれた場合には、それはできません。そこでは、昔ながらの手提げのビニール袋が使われています。酸素を詰めて、密閉がなされているわけではありませんから、魚はすぐに酸素不足になってしまうことでしょう。
水中に溶け込んだ酸素が減ってくると、金魚は、水面で口をパクパクとさせはじめます。水面付近の水の方が、空気と接している分、より多く酸素を含んでいるからです。
ところが、自然界では魚にとってその場所は危険な領域です。シラサギやカワセミなどの鳥、イタチやネコといった動物が、隙あらば魚を捕らえて食べようと、彼らが水面にあがってくるのを、常に狙っているからです。逆に言えば、水面で金魚が口をぱくぱくとさせはじめたということは、天敵に襲われて食べられる危険をおかしてまでも酸素を吸わなければならないほど、彼らが追いつめられてしまっているという証拠です。いつ死んでしまっても不思議ではありません。すみやかに、ビニール袋からとりだして、酸素を豊富に含んでいる別の水へと、移動させなければなりません。
水槽内に貯め置きの水が用意されているのならば問題はないでしょう。ところが、水槽よりも先に魚がやってきてしまったわけですから、そのような準備は、もちろんありません。そのために、金魚すくいの金魚が原因となり、頭を悩ませる事態が発生するのです。
それでは、そういう事態に直面してしまった場合には、はたして、どのように対処すればよいのでしょうか?
容器については、皆さん、比較的簡単にクリアができる問題だと思います。どのご家庭でも、バケツや洗面器の一つや二つはお持ちのことだと思いますから、これらを利用して解決しましょう。それ以外でも、水が貯められ、ある程度の深さと水面の面積を確保できるものならば何でもかまいません。いずれにしても、後日、きちんとした水槽を購入するまでの間の代替品ですから、おおむねバケツ程度の大きさの水が入る容器であれば、何でも良いのです。ここではわかりやすく、バケツを用意したことにいたしましょう。
次には、水の問題です。ご自宅の水道が、自身で所有する井戸の水を水源としているご家庭もあるのかもしれませんが、一般的には、公共の浄水場を水源としている場合がほとんどでしょうから、そういう前提で話をいたします。
前述したように、水道水には消毒のための塩素が混入されているため、その水に、そのまま魚を放してしまったのでは、魚を殺してしまうことにもなりかねません。くみ置きをして、塩素をとりのぞいた水を用意する必要があります。
さて、それではご家庭内にそのような水の用意はあるでしょうか?
最初から、魚を買ってくるつもりだった場合には、当然、そうした用意があることでしょう。けれども、今回は、本来、そういうつもりではなかったのですから、もちろん、用意などありません。何とかして、使える水を調達いたしましょう。
たとえば、庭のバケツに雨水が貯まっていたりはしませんか? ガーデニング用のじょうろにくみ置きされている水。非常用に買い置きをしたまま、押入に入れてあるペットボトルの水なども候補の対象です。石鹸水では論外ですが、何かの成分が混入していたり、雑菌や虫の繁殖など多少の危険はともなったとしても、酸素不足をそのまま放置してしまう方が、よほど危険です。この際、背に腹は代えられません。
とはいえ、ご自宅にくみ置きされている水として、一番、可能性が高いものといえば、やはり風呂水ということになるでしよう。昨晩入ったお風呂のお湯が、すっかり冷めて常温の水になっているようならば理想的です。お湯はもちろん、ぬるま湯でもいけません。
ビニール袋から、バケツに魚を放す際には、袋の水と、バケツの水の温度が同じになるよう、水温調整をする必要があります。両方の水の温度差が大きければ大きいほど、突然、別の水に移動をさせられた魚にとって負荷が重くなり、金魚すくいで扱われていたこと事態ですでに過酷な試練を受けていた魚の体に、さらに鞭を打つことにもなってしまいます。病気の原因となったり、最悪の場合は、死に至らしめてしまうことにもなりかねません。
とはいえ、酸素不足でそのままの状態でもどんどん死が近づいてきてしまっているような状況に金魚はあるわけですから、両方の水を指で触ってみて、ほぼ同じ程度の温度であると感じられたならば、リスクを覚悟で放してしまうしかないでしょう。その際には、いきなり魚を手ですくってバケツの水の中へ放すのではなく、口を開けた状態でビニール袋をゆっくりと水に沈めていき、バケツの水を少しずつ袋に流し込みます。病気のことを考えれば、雑菌類が混入しないよう、袋の水は本来捨ててしまった方が良いのですが、ここではそれぞれの水を少しずつ混ぜ合わせることにより、急激な水温変化を、魚の身に感じさせないようにいたしましょう。元気であれば、金魚は袋を出て、バケツの水へと泳ぎだしますので、それを待って、水中から空のビニール袋を取りだします。
魚を家に持ち帰ってきた時点で、酸素不足に対して、まだ魚がそれほど苦しんだ素振りを見せていないのであれば、バケツの水に袋が三分の二ほどつかるように、ビニール袋のひもを何かに吊して待ちましょう。30分もすれば、それぞれの水の温度は等しくなっているはずです。そうしたら袋から金魚のみをとりだして、バケツの水へ放します。袋の水は、捨ててしまいましょう。30分経つまでに魚が死んでしまわないよう、時々は目をやることを忘れないでいてください。酸素不足で、苦しんでいた場合には、前段に準じます。

酸素があるため、魚はパクパクしていません。
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さて、ここまでで容器と水の準備ができました。魚を飼育する上で、次に考えなければならないのが酸素の補給です。酸素がなければ、金魚は、いつまでも酸素不足から逃れられません。一般的にはエアポンプ、いわゆるブクブクを使用して、水中に酸素を溶け込ませるのですが、もちろん、今回は非常事態ですから、そのような準備はありません。
ところで、金魚すくいで手に入れた金魚は、はたしてどのくらいの大きさでしょうか?
おそらく、3センチメートルから5センチメートル程度の大きさであることと思います。
あなたが金魚すくいの名人であり、ビニール袋の中にはすくった金魚が十数匹も入っているなどということでもない限り、金魚は、一匹か二匹のはずです。それならばエアポンプによる酸素の補給までは必要ないでしょう。もっと簡単な方法があります。
コップのような、水をすくえる容器を用意しましょう。紙コップでも、縁の欠けたコップでも何でもかまいません。お椀や茶碗でも結構です。プリンの空き容器でも問題ありません。魚がいる水につけることになりますから、現在、食事に使っているものよりは、捨てるつもりの、そういった容器の方が、むしろ良いでしょう。
その容器でバケツの水をすくいます。それから、その水をまたバケツの中にこぼします。
作業はそれだけです。こぼす際、辺りに水が飛び散らないように調節しつつも、なるべく高い位置から、水を落とすようにするのがポイントです。そうすることで、バケツの水に、より多く、空気中の酸素が溶け込んでいきます。
この作業を20回から30回ほどおこないましょう。効果を高めるには、数をこなすのに越したことはないのですけれども、魚にとっては、水をかき回されていることになるわけですから、いじめられているのと同じです。やりすぎないように注意いたしましょう。
できれば、もう一つ水を汲み置きして塩素を抜いたバケツを用意しておき、そちらで酸素を溶け込ませてから、他方の金魚を、すくってそこに移動させるというのが理想的です。古いバケツの水は、汚れているので捨てましょう。代わりに、新しい水を、再度、くみ置きしておきます。これを朝晩、もしくは一日に一度はおこないましょう。
バケツの用意を二つもできないという方の場合は、翌日、風呂のお湯が完全に冷めて水になっているのを確認してから、それを使ってバケツの水を入れ替えましょう。三分の二ほど、古い水をこぼして捨ててから、風呂水を補充します。もちろん、風呂水ではない、きちんとした汲み置きの水が他にあるならば、そちらを使うのが理想的です。
以上で、水槽よりも魚が先に家に来てしまった場合の対処方法は、終わりです。
金魚すくいで扱われていた時点から、病気であったり、傷のある魚というわけではない限りは、たいていの金魚が、これでしばらくは延命できます。次の休みには、早速、水槽を買いに行きましょう。ところで、ここに書いたのはあくまで緊急時の場合の話です。本来は、きちんとした水づくりから始めなければならないというのは言うまでもありません。
それから、より現実的な話といたしまして、水道水から塩素を除去して水質の調整をおこなう薬や、濾過バクテリアそのものが、観賞魚店では商品として売られています。したがって、もし、その分、お金が余計にかかってもよろしいのでしたら、魚と水槽とそれらを同時に購入しさえすれば何とかなります。とはいえ、『気軽』かつ『安価』にという、本書のキーワードに反しているため、ここでは、あえて触れませんでした。機会があれば、また別の章で触れたいと思います。
さて、いきなりの脱線が、まるまる一章分と長くなってしまいましたが、次章からは、いよいよ本格的な水槽飼育に入ります。
まずは、60センチ水槽を購入するところから、お話を始めましょう。 |